PPAP問題が浮き彫りにした商標法の落とし穴

動画投稿サイトを通じて世界的な大ヒットとなった「ペン・パイナッポー・アッポー・ペン(PPAP)」の商標を、著作者のピコ太郎さんとも、楽曲の販売元であるエイベックスグループとも無関係な第三者が勝手に商標登録した問題が世間を騒がせました。

すでにこの問題はいろいろなところで報じられていますので、問題の経緯や、商標権は結局誰の手にわたるのか、といったことについては、ここでは触れません。

いまここで論じたいのは、そもそも、無関係な第三者が勝手に他人の商標を出願できてしまうのはなぜなのか、ということです。

目次

無関係な第三者が合法的に商標権を奪える可能性がある

一般的には、PPAPの商標問題によって、商標法とはどういうものか、初めて知った人も多いと思います。

すると、こんな疑問を持った人も少なくないでしょう。

「第三者が勝手に他人の商標を出願できるのはなぜ?」

商標法は、本人が使用している商標を他人に使われないよう、商標を権利化して守るための法律です。

それなのに、無関係な第三者が商標登録を出願できてしまうのです。

出願の手続きそのものが正しく行われるなら、特許庁は出願を受理しなければならず、現状では、第三者による商標出願を防止する手立てはありません。

むろん、出願を受理したからといって、商標登録が認められるとは限らず、他人の商標を勝手に出願しても、登録される可能性は低いです。

とはいえ、商標法の規定では、商標を使用しているか否かではなく、先に出願した人に優先権を認めています。
このため、無関係な第三者が、他人の商標を勝手に出願した場合でも、本人より早く出願すれば、商標登録が認められてしまう事態が制度上ありうることですし、実際にあります。

本来の商標権者ではなく、無関係な第三者が合法的に商標権を奪える可能性があるわけですから、確かにおかしな話です。

どうして、そのような事態になっているのでしょうか。

出願主義のメリットがより大きい

そもそも、商標法には、出願を優先する「出願主義」と、使用実態を優先する「使用主義」の2通りがあります。

日本をはじめ、世界のほとんどの国で出願主義を採用しており、使用主義を採用しているのは少数派です。

以前は、イギリスやオーストラリアなどでも使用主義を採用していましたが、後に、先出願主義に乗り換えており、現状でも使用主義を採用しているのはほぼアメリカ一国という状況です。

理由は簡単、出願主義、使用主義とも、メリット、デメリットがあるわけですが、出願主義のメリットが上回っており、運用しやすいからです。

出願主義のメリットは、なんといっても権利の発生日が明確なことです。

使用主義は、先に商標を使っていた側に権利があるという点で、フェアな制度のように見えます。

しかし、「俺のほうが先に使っていた」という人が現れるたびに、商標権者が変わることになり、権利が不安定化するデメリットがあります。

また、商標の使用開始日を特定するのは非常に困難な作業になる場合が多く、訴訟費用が莫大になりがちです。

場合によっては、ライバルを疲弊させる目的で商標の使用権を争う訴訟を頻繁に起こすといったことも考えられるわけです。

その点、出願優先にしてしまえば、争う所以もなくなりますし、先に商標を使用していた人がもっとも早く出願できる立場にいるわけですから、実はよりフェアな制度と言えるのです。

法の運用によって第三者の出願登録を阻止可能

出願主義を採用することで、他人の商標を第三者が勝手に出願してしまう余地を残しているわけですが、運用によってそのような事態を阻止することは可能です。

第一に、特許庁では、商標出願の情報をすべて公開しています。

商標出願されると、おおよそ1カ月ほどで、特許庁のデータベースに情報が収載され、特許庁の窓口や誰でも無料で閲覧可能なWebサイト「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」でいつでも閲覧できるようになります。

とはいえ、商標出願情報を日常的にチェックしているわけにはいきません。

第三者が勝手に商標を出願したことに気づかなかった場合はどうなるでしょう。

その場合も心配ご無用です。

第三者が他人の商標を勝手に出願した場合、登録される可能性は非常に低いです。

特に、周知商標(誰でも知っているような著名な商標)は、第4条1項19号などの規定により、商標登録されている・いないに関係なく、他人が勝手に商標登録することはできません。

また、著名商標の場合、不正競争防止法など別の法律でも守られており、いろいろな方法で商標を守ることができます。

つまり、本来は、第三者による商標出願を防止したいが、それができないので、現状では登録を認めない方向で運用しているということです。

商標登録を先に済ませておくのが最善

問題は、世の中に知られていない無名な商標です。

著名商標については特許庁でも把握していますので、第三者が勝手に出願しても審査の過程で排除できます。

しかし、無名商標については特許庁に情報がありませんので、出願手続きそのものが間違っていなければ、登録されてしまう可能性があります。

もし、自分の商標が無関係な他人によって登録されてしまった場合はどうですればいいでしょう。

第三者による商標出願が審査をすり抜けて登録されてしまっても、特許庁に異議や登録の無効を申し立て、登録を取り消すことができます。

ただし、その場合、

  • 第三者が出願した時点で、本来の権利者によって商標が使用されていることがある程度知られていた(周知性があった)
  • 出願人の目的は、商標の使用ではなく、本来の商標権者より先に出願して商標登録を妨害する目的である。ライセンス料を請求することが目的であるなど、不正出願にあたる

といったことが証明する必要があります。

やはり、自分の商標を守るためには、他人に取られる前に商標登録を済ませておくことが最善と言えるわけです。

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