特許庁、他人の商標の先取りとなるような不正出願の却下を待たず正当な出願を先に審査

特許庁は6月21日、「手続上の瑕疵のある出願の後願となる商標登録出願の審査について(お知らせ)」を発表しました。

同一・類似の商標登録出願が行われた場合、先に出願された商標登録願から順に審査するのがルールですが、先に出願されたものに出願に手続き上の問題がある場合、後に行われた出願を先に審査するという例外規定について告知したものです。

他人の商標の先取りとなるような出願が増えることによって、本来の商標権者が商標登録出願をためらったり、出願手続きが遅れることによる不利益を被ったりしないようにするための配慮と思われます。

目次

PPAPやプレミアムフライデーも過去に同様の問題があった

「瑕疵のある出願」とは、商標登録出願の際に、所定の出願手数料を納めないなど、手続き上の不備がある出願のことを言います。

近年、このような出願が増えています。

背景には、他人が使っている商標を本人に先んじて商標出願し、ライセンス料や買取りを要求する業者の存在があります。

最近では、YouTubeを通じて世界的なヒット曲となったピコ太郎さんの「PPAP」や、日本政府と経済界が主導した「プレミアムフライデー」が、無関係な第三者によって本来の商標権者より先に商標出願されていたことが話題になりました。

*ご参考までに、下記にこの件に関する過去の記事を列挙します。
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このような出願は、商標出願の既成事実を作ることだけを目的に行われるため、出願にともなう手数料を納めていないケースが多く、制度を悪用した不正出願と言えます。

通常、手続きに問題がある出願に対して、特許庁はおおよそ1カ月に1度、出願料を支払うなど手続き上の問題を解消するよう促す通知を行います。

それでも問題が解消されない場合、4~6カ月で自動的に商標登録出願は無効扱い(出願却下)になります。

このため、特許庁では、「他人の商標の先取りになるような不正な出願が行われていても、商標登録をあきらめないように」という趣旨の告知を以前から行っています。

本来の商標権者の権利保護を優先する運用ルールの適用

今回はさらに踏み込んで、同一・類似の出願が重なったときでも、先に出願された商標登録願に手続き上の瑕疵がある場合には、後に行われた出願を優先して審査するという方針を改めて伝えたものです。

通常であれば、先に出願されたものから順に審査していくわけですが、出願手数料を納めない限り審査開始できません。出願料が支払われるか、支払い猶予期間を過ぎて無効になるまで、出願が棚ざらしになります。

この間、後に行われた出願についても、審査待ちの状態になります。

問題は、先に行われた出願に手続き上の瑕疵があったとして、単に手続きが遅れているだけなのか、そもそも支払う意思がない不正出願なのか、特定する根拠がなく猶予期間を過ぎて出願却下になるまで正当な出願の審査が進まない事態になることです。

他人の商標の先取りを意図したような不正出願が行われることによって、本来の商標権者が審査を待たされたり、登録が遅くなったりする不利益を被る事態をなるべく避ける必要があります。

現行の法制では、他人の商標の先取りを意図したような不正出願であっても、出願そのものをとめる手立てがなく、次善の策として、本来の商標権者による出願を先に審査するための運用を行っているものです。

いったん拒絶査定になっても逆転登録になる

具体的な手順としては、同一・類似の商標であっても、先に出願された商標登録願に瑕疵がある場合、後に行われた出願を先に審査スタートします。

当然ながら、後に行われた出願に手続き上の瑕疵がないことが前提条件です。

審査期間は現在、おおよそ5カ月です。

不正出願が無効になるまで4~6カ月なので、この間に、先に出願された商標登録願の出願却下が確定すれば、そのまま登録査定(商標登録を認めるという審査結果)になります。

仮に、後に行われた出願が審査の結果、登録査定相当と判断されても、不正出願の無効がまだ確定していない場合、いったん拒絶査定(商標登録を認めないという審査結果)扱いになります。

ここで、拒絶理由通知(商標登録を認めないという審査結果を伝える通知)が届いてもあわててはいけません。あくまで一時的なもので、不正出願の無効が確定した時点で改めて登録査定されることになります。

参考:
手続上の瑕疵のある出願の後願となる商標登録出願の審査について(お知らせ)

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