ロゴをめぐる物語「鹿島建設」

我が国初の高層建築を手掛け、東京駅丸の内駅舎や東京湾アクアライン、国立新美術館、などモニュメントとなる数多くの建築に携わってきた鹿島建設。

その歴史は日本という国の社会変化と発展とともにありました。

江戸時代に個人商店として始まり、激動の明治、大正、昭和を駆け抜ける中で、鹿島建設も大きな変化と躍進を遂げていったのです。

その変革の歴史が、ロゴの変遷に現れています。

目次

最初のロゴは大工店の商標

鹿島建設が誕生したのは江戸時代の天保年間です。

当時は屋号を「大岩」と言いました。

大工職人の岩吉が開いた大工店なので縮めて「大岩」と称したと言われています。

おそらく、このころ、最初のロゴが誕生したものと思われます。

力強い筆致で書かれたカタカナのカに¬(カギ)がかかるデザインです。

もちろん、当時はロゴとは言いません。

商標と言っていました。

商家ごとに作られた目印のようなものです。

現在の商標制度に使われる商標の語源でもあります。

記録には残っていませんが、岩吉が開いた大工店の店頭には木版で作られたカに「¬」マークの商標が掲げられていたことでしょう。

現在でも残る法被の背中には、大きくカと「¬」が染め抜かれているデザインを見ることができます。

カは創業者である鹿島岩吉氏の頭文字から取ったもの。

同時に、大工仕事をイメージさせる力(ちから)の意味も表しています。

「¬」は大工が使う、さしがねと言う道具をシンボリックに描いたもの。

鉄製で目盛がついており、木材などの寸法を測るのに欠かせない大工7つ道具の一つで、現在ではステンレス製になりましたがまったく同じ形のものが建築現場で使われています。

力強いカの文字と技術を表すさしがねの組み合わせは、技術を誇りとする職人の商標としてとてもマッチしています。

当時としては珍しくアルファベットをあしらった商標を使用

江戸末期から明治にかけて、急速な西洋化による建設ラッシュの中で、洋館建築で先んじた大岩は街の大工から飛躍し、開発工事までを請け負う大店に成長していました。

このころ、大岩を改め鹿島組に改組しています。

新しいロゴも制作されました。

岩吉の岩の点字を図案化した記号を中央に、鹿島組の頭文字である「K」を重ねたものです。

当時としては珍しくアルファベットが使われています。

これは、洋館の鹿島と言われた鹿島組ならではの特徴でしょう。

近代的建設業にふさわしい直線的なロゴ

伝統的なカに¬と、近代的な岩にKの2つの商標をしばらく併用していましたが、1991年にさらに二つのロゴ商標ができます。

このころ、活版印刷の技術が発達し、新聞やチラシなどの印刷物に使用するためのロゴを作る必要性が生じました。

そこで、従来のカに¬の伝統的なマークをデザインした商標と、それを直線的に図案化した商標を作ったのです。

直線的なロゴは印刷用に、カに¬の伝統的なデザインは社旗や看板に使い分けられました。

しばらくは4つのロゴを併用していたわけですが、やがて、大正、昭和と時代が移っていくにつれ、直線的なデザインに一本化されていきます。

鹿島は伝統的な大工職人集団から会社組織へと変貌し、住居だけでなく鉄道や橋などの建設も手掛ける総合開発業になっていました。

さらに、明治32年にはすでに海外へも進出を果たしていた鹿島にとって、伝統的なカに¬の日本的な商標はそぐわなかったのでしょう。

大工という職人集団のイメージではなく、近代的な建築業として、また、世界中の誰が見ても鹿島だとわかるロゴにする必要があったのかもしれません。

丸みを帯びたロゴに込められた企業理念

明治のころに制定し、伝統的なカに¬のモチーフを直線的にデザインしたロゴを近年まで採用していた鹿島ですが、1991年に現在のロゴを改めて制定しました。

伝統的なカに¬のモチーフはそのまま、直線的なデザインに大きなカーブが加わり、色も黒から赤色に変わりました。

全体的に少し硬いイメージからやわらかいフォルムになっています。

これは、長年、建設や開発を通じて築いていた伝統の上に、新しい価値観である人間とって真に快適な環境創造を行うという企業理念に込めた思いを表現したものです。

日本の時代の変化、発展とともに成長してきた鹿島。

江戸末期から明治にかけて、急速な西洋化の中で西洋建築をリードし、明治後期から昭和にかけての近代化・工業化の中で鉄道建築や大型プラントの開発などを手掛け、戦後の復興では経済発展の象徴である高層建築を業界に先駆けて推進してきました。

現在、建築や開発業は国の産業の根幹であることに変わりありません。

しかし、すでに時代は物的豊かさを謳歌する社会から心の豊かさを求める社会に変革しています。

ただ施設を作るだけではなく人と環境のかかわりを考える会社でありたい、そんな願いがロゴの変化に込められているのかもしれません。

参考:
鹿島建設企業サイト
鹿島ブランドを考える

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